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プロミスの第一人者

市場システムを守ろうと努力しつづけてきたのです。 一方で1980年代には磐石と思われていた日本の官僚調整型経済システム。
時代が進むにつれ徐々にほころびが見られるようになっていきます。 N航機の御巣高山への墜落(1985年)、H神淡路大震災(1995年)、オウム真理教事件(1995年)、Y一護券自主廃業(1997年)、N本長期信用銀行破綻(1998年)……。
こうした一連の動きを経て、日本もアメリカも現時点に立っています。 結果はどうだったのでしょうか。
過去15年の間にアメリカの株価は4倍になり、日本は3分の1になりました。 結果を見るとて一倍の差がついてしまったことになります。
賢者による調整機能は1時的には市場より上手く機能することもあるかもしれません。 長い目で見れば結局は市場の自立作用のほうが人為的な調整機能を上回ることを意味するのでしょうか。
巨額の貿易赤字と財政赤字を抱えるアメリカ。 一方で少子化、高齢化社会に突入していく日本。

これまでの15年間が荒波の連続であったように、これからの15年間もアメリカや日本の前には多くの難問が立ちはだかっています。 おそらくアメリカはこれからも従来同様にこうした難題に対して原理原則を貫き市場の力を信頼しながら対処していこうとするでしょう。
一方で日本は引き続き「調整型」の対応を取っていくのでしょうか。 「調整型」対応のロジックの」つに「三方一両損」というものがあります。
2004年、国と地方との間で議論された税源移譲、いわゆる「三位一体改革」の際にも使われました。 私がK銀で水俣病に関する金融支援に係っていた時にも使われた言葉です。
「国もこれだけ踏み込んだ形で支援する。 県もここまでは降りてくれ。
民間金融機関もここまで譲歩して欲しい」 みんなが歩み寄ってぎりぎりの線まで妥協して何とか問題を解決しようという知恵です。 「和を以ってとする」です。
ただ三方一両損の根底にあるのは「自分の庭先はできるだけきれいにしたい」という発想です。 大きな国家観が欠落しています。
今の若い人は恐ろしいくらいに冷めた目で、団塊の世代や今後の日本の状況を見ています。 「団塊の世代が生まれたばかりの日本は非常に貧しかったと聞きました。
奥深い山村では赤ん坊が生まれても育てていくことができません。 そのため、生まれたばかりの赤ん坊を川に流したといった話まで聞いたことがあります。あるいは日本には老人は姥捨て山に捨ててきたといった民話もあります。
結局これからの日本というのはそういった時代に戻っていくだけなのかもしれませんね」たしかに今、社会に充満している閉塞感からすると、こういった冷めた見方をする若い人が出てくるのも不思議ではありません。 本書の冒頭で申し上げましたとおり、市場は時に暴力的で金融は一歩間違えると恐怖の世界を出現させます。
インフレ率が5000%を超えた1994年のブラジルやGDPが半分近くに減少したかつてのロシアのような状況です。 「自分の庭先だけはきれいにしたい」そういった発想を続けていては、いずれ市場から退場を意味する「レッドカード」を宣告されてしまいます。

個々人の最適解が全体としての最適解に一致しない。 経済学で言うところの「合成の誤謬」にやがて陥ってしまうのではないかと不安でなりません。
1人1人が自分の利益を考えることで結果として「神の手」が働き、社会全体が豊かになる。 資本主義の根底にあるのはAダム.Sミス以来のこうした考え方でした。
もちろん神の手が有効に機能するには最低限のルールが必要です。 「内部情報を入手して取引を行なう」「虚偽の情報を市場に流して株価を操作する」公正な市場取引を阻害するこれらのルール違反に対してアメリカのSEC(証券取引等監視委員会)は敢然と立ち向かい市場システムを擁護してきました。
ルールがすべてというわけではありません。 いかに立派な制度や枠組みを作っても最後に生かすのは「人」です。
『ノーブレスーオブリジエ』という言葉をご存じでしょうか。 貴族のような高い身分の人に伴う徳義上の義務を言います。
責任ある地位にある人ほど高潔であることを求められます。 ご覧のように私が学んだ当時からスタンフォードでは「ビジネスと変化する環境」と称する科目が必修履修科目として教えられていました。

この科目の主要テーマの1つが「倫理」でした。 アメリカのビジネスースクールといいますと、金融やマーケティングといった実利的な学問やテクニックだけを教えるところと誤解されている方もいるかもしれません。
四半世紀以上前から「倫理」を主要テーマとして教えていました。 アメリカで医薬品事業を行なっている会社の中に仕日本に進出していないところもあります。
少し前のことになりますが、その会社の幹部の方に聞きました。 「日本の製薬会社の販売員はMRと呼ばれ、一部には医者とかなり密着した関係にあるケースもみられると聞きます。
当社の倫理規定に反してしまうため、日本への進出を見合わせています」 市場主義を拝金主義と誤解し心まで金に支配されてしまったのでは、本当に精神が荒廃してしまいます。 日本の責任ある地位の方々、あるいはこれからそういった地位に影かんとされている方々には、今一度『ノーブレスーオブリジエ』の意味するところをかみしめていただきたいと思います。
今求められるのは、より高い次元に基づくビジネスープラクティスです。 資本主義を生かすも殺すも最後は人の心であると思います。
私たちの1人1人が金融に関する「ものの見方」や「考え方」を身につける。 そうすることによって少しでも良い方向に今の社会が変わっていくのではないか。そんな思いで本書を書いてきました。
日本には、アメリカ型市場主義の導入に対して根強い懐疑論があります。 「貧富の差が拡大する」「拝金主義が横行し精神が荒廃する」といった考え方です。
本書をここまでお読みいただけた読者にはお分かりいただいたと思いますが、本書はけっしてアメリカ型資本主義の導入を讃美し擁護しているわけではありません。 どちらかと言いますと拝金主義の対極をなす考えで綴られています。
私がここで最後にお話ししたかったのは、アメリカ的とか日本式とかを論ずることは往々にして本質を見えにくくするということです。 せんじ詰めれば、経営に日本的もアメリカ的もありません。

ステークホルダー型資本主義などといって日本だけで通じる「特異なシステム」というのは、実は一部の既得権者だけが得をするシステムになっていることが多いようです。 「日本独特」といった、時として心地よい言葉に惑わされずに、みなさん方にはぜひとも本質をつかんでいただきたいと思います。
そのためには学問の力を借りることも有用です。 たとえば学問的におかしなことは長続きしません。
価値の連鎖作用、いわゆるシナジーがあるといって持ち株会社形式をとり、傘下に住宅建築会社と化学会社を併せ持つ会社が日本にあります。 一方で、ボーイング社のようにジャンボジェット機のジェットエンジンですら他社から購入している会社もあります。
金融の学問的、理論的な考え方に触れられた読者の方には、どちらが「おかしなこと」か、お分かりになると思います。 最後は学問や常識が勝利します。
Sャープ教授の金融理論をはじめ、金融の学問的な部分をできるだけ平易に説明したのはそういった考えからです。

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